2021年12月8日 水曜日
クラフトビール製造の初期投資はどれくらい?調達方法も紹介
クラフトビールの製造を検討する場合、初期投資がどのくらい必要なのかを知っておく必要があります。物件・設備・免許などさまざまな部分で費用がかかるため、計画的に準備を進めることが大切です。ビール製造に必要な費用や資金調達方法について解説します。
クラフトビール製造は計画的に
ブルワリーの開業には、ある程度の資金と時間が必要です。それぞれの目安を知り、計画を立てることの重要性を理解しておきましょう。
飲食店の開業費用はどれくらい?
日本政策金融公庫の新規開業実態調査では、2012年度の飲食店開設費用の平均額が約883万円であることが分かります。不動産を購入した企業は調査の対象外です。
飲食店開設費用の平均額の内訳を見ると、内外装工事が41.7%と最も高い割合を占めています。機械・什器・備品などが21.1%、運転資金が19.1%、テナント賃借費用が17.5%と続きます。
ビール・発泡酒製造業者の販売形態の実態も知っておきましょう。国税庁の調査によると、平成30年度の販売形態はレストラン併設型が最も多く、全体の38.0%を占めています。
参考:新たに飲食業を始めるみなさまへ 創業の手引+|日本政策金融公庫
ビール製造は軌道に乗るまで時間がかかる
ブルワリーを開業する場合は、製造免許と販売業免許を取得しなければなりません。免許を受けるまでにかかる期間は、原則として製造免許が4カ月以内、販売免許が2カ月以内です。
ビールが完成するまでに約1カ月かかることにも注意が必要です。造り始めてから完成するまでの間は、オリジナルビールを提供できません。
このように、ブルワリーの運営を軌道に乗せるまでには時間がかかるため、ある程度の運転資金を確保しておく必要があります。運転資金を圧縮するために、まずはほかのブルワリーから取り寄せたものをゲストビールとして提供する飲食店をスタートさせておくのも一つの方法です。
ブルワリー開業にかかる費用は?
ブルワリーの開業にはさまざまな費用がかかります。代表的な費用の種類と、できるだけ節約するためのコツを紹介します。
保証金や礼金などの物件取得費
ブルワリーを開業するためには、製造場所となる物件を借りたり取得したりしなければなりません。賃貸契約を結ぶ際は、家賃以外に仲介手数料・保証金・礼金などがかかります。
物件を取得する場合も、取得時やローン契約時にさまざまな初期費用が必要です。賃貸もしくは購入のどちらを選ぶにしても、物件の規模によっては開業時に100万円以上かかるケースもあります。
物件にかかる初期費用を抑えたいなら、10坪以下の小規模物件を選ぶのがおすすめです。内装や設備を引き継げる居抜き物件を見つけられれば、より費用を安くできるでしょう。
内装費は節約しやすい
こだわりのビールを製造・販売する場所では、内装にもこだわりたいものです。ただし、内装を全て業者に任せてしまうと、費用が高額になってしまうケースが少なくありません。
DIYに自信があるなら、できる限り自分で内装を行うことで内装費を節約できます。内装業者と相談して部分的に安価な資材を使うなど、節約するための工夫を凝らすのもおすすめです。
DIYが不慣れな場合は、無理に自分で手掛けるとセンスのない内装になりかねません。安価な資材を導入し過ぎた場合、見た目が安っぽいお店になりやすい点にも注意が必要です。
ビールの製造にかかる費用は?
ブルワリーの開業時には、製造場や店舗だけでなく、ビールの製造にも費用がかかります。具体的にどのような費用が発生するのかを押さえておきましょう。
免許や許可を受けるための費用
オリジナルビールを製造する場合は、酒税法に基づき酒類製造免許を受けなければなりません。酒類製造免許の取得には、登録免許税15万円が課税されます。
食品衛生法に基づく営業許可も必要です。酒類製造業の営業許可取得時には約1万9000円、飲食店営業の場合は約1万8000円の費用が発生します。
免許や許可を受ける手続きを行政書士に依頼する場合は、上記の法定費用とは別に、行政書士に支払う報酬もかかります。飲食店営業許可手続きの代行なら約4万円、酒類の製造・販売にかかる免許や許可の場合は約10万~17万円が報酬の目安です。
ビール醸造に必要な設備費用
ビール醸造のための設備にも費用がかかります。
麦汁を造るタンクやアルコール発酵を促すタンクなど、ビール造りには複数のステンレス製タンクが不可欠です。一般的に、ビール醸造に必要なタンクをそろえるには、1000万円〜2000万円ほどの費用がかかります。タンクや配管を機能的に配置するための設計にも、プロの知恵が必要です。
冷蔵庫・樽洗浄機・モルト粉砕機など、醸造に必要な機器類にも費用が発生します。配管工事費や電気工事費も準備しておきましょう。
初期資金の調達方法を考えよう
開業資金が不足しているなら、資金を集めるための方法を考える必要があります。ブルワリー開業でも利用しやすい、日本政策金融公庫の融資を検討するのがおすすめです。
日本政策金融公庫の融資などを活用
ブルワリーの開業資金を調達するなら、日本政策金融公庫が実施する『国民生活事業』の融資を活用しましょう。国民生活事業では、小規模事業者でも利用しやすい融資を行っています。
小口融資を主体としており、平均融資額は約698万円です。融資先に地域密着型の小規模事業者が多い点や、担保に依存しない融資を推進している点も特徴です。
おすすめの資金調達方法としては、クラウドファンディングも挙げられます。ビール造りへの熱意をアピールし、ビールを楽しめるリターンを設定すれば、多くの賛同を得やすくなるでしょう。
ただし、目標金額に達するまで時間がかかりやすい点に注意が必要です。日本政策金融公庫は約1カ月で資金を調達できるのに対し、クラウドファンディングは2カ月以上かかることもあります。
自己資金と綿密な事業計画を用意する
日本政策金融公庫の融資は、自己資金が多いほど審査で有利になります。ある程度の資金を用意できている事業者なら、貸し倒れのリスクが低いと判断されやすくなるためです。
日本政策金融公庫の実態調査を見ても、開業時の自己資金不足を反省点に挙げている事業者が多いことがわかります。融資を受ける際は、できるだけ多くの自己資金を用意しましょう。
融資を成功させるためには、綿密な事業計画も必要です。ビール製造後の卸し先や資金使途などを明確に示せれば、評価が高くなり高額融資も受けやすくなるでしょう。
事業計画書には、『創業の動機』『経営者の略歴』『商品やサービスの魅力』『仕入先・販売先』『借入状況』『必要な資金』などを盛り込みます。資料を豊富に添付し、事業実現性の高さをアピールすることが重要です。
初期投資で失敗しないために
ブルワリー開業を成功させるために意識しておきたいポイントを解説します。集客見込みや初期費用の回収目安を考えておくと同時に、価値あるビールを生み出すために努力することが大切です。
集客の見込みや回収年数を考える
ビール製造を軌道に乗せるためには、集客の見込みを考えることが重要です。自家醸造のビールに絞ってアピールすれば、開業直後からファンを獲得しやすくなるでしょう。
初期費用を何年で回収できるか、シミュレーションを行っておくことも大切です。『投資回収率(ROI)』を用いて回収年数を概算すれば、新たな事業展開の計画も立てやすくなります。
開業当初の資金繰りに不安があるなら、『シェアリングブルワリー』の活用も検討してみましょう。シェアリングブルワリーとは、ビール職人が共同で利用できるブルワリーのことです。
自前のブルワリーを持たずに済むため、ビール造りにかかる初期費用を大幅に抑えられます。期間限定ビールなどを開発したい場合に、小回りを利かせられる点もメリットです。
価値あるビールを生み出そう
マイクロブルワリーで提供されるクラフトビールの価格帯は、500~700円程度に設定されるのが一般的です。大規模な醸造所で造られるビールに比べれば、価格は高めになります。
しかし、より多くの利益を上げるためには、さらに高価格で売ることも意識しなければならないでしょう。競合との価格差を生み出せなければ、数あるクラフトビールの一つに留まってしまいます。
少量醸造のメリットを生かして価値あるビールを造れれば、価格を高くしても飲み手に満足してもらえます。飲食店を併設する場合は、客単価を上げるための工夫を凝らすことも重要です。
まとめ
ブルワリー開業にはある程度の初期資金が必要です。ビールの製造には時間がかかるため、開業当初の運転資金も意識しておかなければなりません。
日本政策金融公庫の融資は、小規模事業者でも資金調達しやすい点がメリットです。自己資金と綿密な事業計画を用意し、開業準備を計画的に進めましょう。