2021年11月11日 木曜日

マイクロブルワリーを開業するには。必要資金、免許、準備などを解説

クラフトビールのブームが続く中、「小さな醸造所でオリジナルのビールを造りたい」という夢を抱く人も多いでしょう。実際、数坪のスペースで営業をするマイクロブルワリーもたくさんあります。開業に必要な免許や資金調達方法についてを確認しましょう。

小規模なオリジナルビール製造をはじめよう

(出典) pexels.com

日本を含む、世界各国の醸造所では個性豊かなクラフトビールが製造されています。比較的規模の小さな醸造所は『マイクロブルワリー』と呼ばれ、未経験者でも比較的取り組みやすいのがメリットです。

マイクロブルワリーとは

日本における『マイクロブルワリー(Microbrewery)』とは『小規模な醸造所』や『店舗併設型ビール工場』のことです。

『マイクロ』とは、文字通り『小さな』という意味合いがありますが、クラフトビールの本場であるアメリカでは、醸造所の規模ごとに名称が異なります。

事業者団体のブルワーズ・アソシエーションによると、マイクロブルワリーは年間生産量が1万5000バレル(約1750kl)以下で、75%以上が外部販売されている醸造所を指すようです。

さらに小さな醸造所は『ナノブルワリー(Nano brewery)』、レストランに併設された醸造所は『ブルーパブ(Brew Pub)』と呼ばれています。日本とアメリカでは醸造の規模が異なるため、定義がそのまま当てはまるわけではありません。

マイクロブルワリー開業の前に

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マイクロブルワリーの経営やビールの開発にはそれなりの知識が必要です。資金があれば誰にでも始められるものの、多くの人に愛される商品ができるかどうかは造り手次第でしょう。開業の前にどんな準備をしておけばよいのでしょうか?

ビールの造り方を学ぶ

『ビール造りの基本』を学ぶことが最初のステップです。独学で学ぶ人もいますが、製造設備の準備や免許取得、醸造研修までを一貫してサポートするプログラムもあるため、資金が調達できれば比較的スムーズに始められるでしょう。

ビール造りは、『原料の選定』から始まります。原料の大麦から麦芽をつくる『製麦(せいばく)』や、ビール酵母による『発酵』、数週間から数カ月の『貯酒』などを経て、樽詰めされます。

原材料や発酵の仕方によってクラフトビールは味わいが大きく変わるため、ブルワー(造り手)は理想とする商品を明確にイメージする必要があるでしょう。

お店で提供する場合は飲み方も

商業施設やビアホールでクラフトビールを提供する際は、顧客に『おいしい飲み方』を提案しましょう。日本で市販されているビールのほとんどはラガー系のピルスナーですが、クラフトビールのビアスタイル(ビールの種類)は世界に100種類以上あります。

グラスの形状や厚み、脚の有無などによってビールの味わい・香り・泡立ちが変化するため、ビアスタイルに合ったグラスの準備はマストです。

さらに、『ビールと相性のよい料理』を提供することで、両者の個性やおいしさがより引き立ちます。

レシピの考案

クラフトビールの製造では『レシピ』が全ての鍵を握ります。ビールの主原料は、水・麦芽・ホップ・酵母の四つが基本で、そこに副原料として、米・コンスターチ・糖類・果物・香辛料などが添加できます。

造り手は自分が理想とするビールをイメージしながら、「どこの原料を使用するか」や「何を掛け合わせるか」を考えていかなければなりません。

ビールのおいしさを決める要素は複数ありますが、中でも『味覚』は非常に重要なポイントです。主に、苦味は『ホップ』、うまみやコクは『麦芽』に左右されるため、原産地や投入量、発酵時間などを調節し、研究を重ねていく必要があります。

地元に根差した地ビールを造るのであれば、地元にまつわるストーリーをどれだけ盛り込めるかがポイントになるでしょう。

マイクロブルワリー開業資金の準備

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マイクロブルワリーを開業する際、初期費用としてどのくらいの資金を用意すればよいのでしょうか?自己資金が少ない場合は、日本政策金融公庫などから融資を受ける手もあります。資金調達をする際は創業計画をしっかりと立てましょう。

ビールを造る設備にかかる費用は?

ビール造りは、酒類製造免許と醸造設備がなければ始まりません。開業する地域や規模にもよりますが、免許の取得から設備の導入までを代行会社に任せる場合は1200万円~とみておきましょう。

ビール工場として免許登録するためには、ほかのスペースとの区切りが必要です。商業施設内や古民家などで行う場合は『内装費用(一部解体・給排水・電気の引き込みなど)』が別途生じます。家賃や光熱費、材料費などのランニングコストも考慮して資金計画を立てましょう。

資金調達方法は?

開業資金の負担が大きい場合は『融資』を検討しましょう。事業者を支援する政府系金融機関の一つに『日本政策金融公庫』があります。個人企業や小規模企業向けの小口資金の融資も行っているため、一度相談してみるとよいでしょう。

融資を受けるには『創業計画書』や『設備資金』などを用意した上で、ネットや郵送で申し込みをします。

融資審査では「貸した資金がきちんと返済できるのか」が重視されるため、現実性のある収益計画を提示することがポイントです。『販売戦略』や『ターゲット』もできるだけ詳細に記載しましょう。自己資金の目安は、融資金額の3分の1以上です。

場所と人手の確保

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マイクロブルワリーの魅力は数坪の小さな物件でも醸造がスタートができることです。従業員を雇わずに1人でお店を回すオーナーもおり、場所と人手の確保に関してはそれほどハードルは高くありません。

小さなスペースでも醸造所にできる

日本でも1994年4月に税法が改正され、ビールの製造免許を取得するために年間最低醸造量が2000kl必要だったのが、60klまで大幅に緩和されました。

発泡酒の免許に関しては、年間6kl以上あれば醸造免許が取得できます。業態にもよりますが、5坪程度のスペースなら醸造は十分可能です。実際、日本には3坪ほどのスペースでこぢんまりと営業する小さなブルワリーもあります。

オーナー1人で回すのであれば5~10坪、2人でやるのであれば10坪~を目安にしましょう。狭いスペースに配置できるステンレスタンクも販売されています。

飲食店内の醸造スペースは、排気・排水の設備が共有できるのがメリットです。クラフトビールの提供を始めてから、売上が15%以上アップした店舗も少なくありません。

ビール造りは衛生管理が命

ビール造りは、製造工程の衛生管理・温度管理が欠かせません。『ビール酵母』はとてもデリケートで、環境の変化で突然変異したり、ほかの酵母が侵入したりすると使い物にならなくなってしまいます。とりわけ培養時は雑菌汚染の可能性が高く、徹底した衛生管理が必要です。

また、仕込み釜や発酵・貯酒タンクは大量の水や薬剤を使い、循環洗浄・殺菌をこまめに行います。ビールの製造の半分は『清掃』といっても過言ではなく、忍耐力と注意力がなければビール造りを続けていくことは難しいかもしれません。

ビールの製造免許や営業許可を取得する

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日本では『酒類製造免許』がなければ醸造はできません。店を営業する際は、営業許可の取得や各種届出を忘れずに行います。書類に不備があると認可に時間がかかるため、専門家にサポートを依頼することも考えましょう。

保健所の営業許可や酒類製造業の許可が必要

酒類を製造して提供する際にはさまざまな『許可』が必要です。業態によっては届け出が不要なものもありますが、醸造所+飲食店をスタートさせるならば、以下の許可を申請しておきましょう。

  • 酒類製造免許(税務署)
  • 飲食店の営業許可(保健所)
  • 深夜酒類提供飲食店営業開始届出(警察署)
  • 開業届(税務署)
  • 防火管理者選任届(消防署)

『深夜酒類提供飲食店営業開始届出』は深夜0時以降に酒類を提供する場合に限ります。収容人数が30人を超えるときは『防火管理者選任届』を忘れずに提出しましょう。

技術や製造量などの条件を満たす必要がある

醸造所を始めるにあたり、もっとも重要なのが『酒類製造免許』です。自家醸造で飲酒をする場合でも、免許なしでの製造はできません。

違反した場合、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられるほか、製造した酒類や原料、器具は全て没収となる点に注意しましょう。

酒類製造免許を受けるためには、醸造技術や最低製造量基準、製造設備などの条件を満たした上で、所定の申請書及び添付書類を管轄の税務署に提出します。『酒税法第10条各号に規定する拒否要件』も確認しておきましょう

参考:【酒類製造免許関係】|国税庁

免許取得にかかる期間と費用

免許取得は、製造しようとする酒類の品目別ごとに行います。申請に手数料は不要ですが、1件ごとに15万円の『登録免許税』が必要です。

国税庁のWebサイトによると、標準的な処理期間は原則4カ月間です。ただし、初めてビール造りをする場合は免許申請前に要件に合った醸造設備を導入しなければならないため、準備から免許取得までに1年以上の日数を要することがあります。

全くの未経験者は、許認可申請の代行をする専門家のサポートを受けた方が安心でしょう。

まとめ

ヨーロッパやアメリカと比べると、日本はクラフトビールの後進国です。とはいえ、近年はクラフトビールの需要が急拡大しており、全国の醸造所の数も増加傾向にあります。

小さなマイクロブルワリーであればわずか3、4坪のスペースでもスタートが可能なため、ビジネスとしては取り組みやすいでしょう。

醸造には、醸造設備の導入や酒類製造免許の取得などいくつものプロセスを踏む必要があります。一から自分でやるのは難しいという場合は経験豊富なプロにサポートをお願いするのも一つの手です。

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