2021年11月25日 木曜日

クラフトビールの造り方。原材料、発酵のさせ方で味わいが変化

クラフトビールは原材料の選び方や組み合わせ、発酵方法で風味が変化します。ビール職人は造りたいビールを明確にイメージした上で全ての工程に取り組んでいるのです。ビール完成までの流れや酒造りに欠かせない免許の取得などについて理解を深めましょう。

クラフトビールを造る前に

(出典) pexels.com

1994年に酒税法が改正されて以降、個性的なクラフトビールを造る醸造所が増えています。お酒を製造したり、販売したりするにはいくつものプロセスを経る必要があります。まずは、クラフトビールについて理解を深めるとともに、どんな商品を提供したいかを明確にしましょう。

クラフトビールを知る

クラフトビールの定義はさまざまですが、一言で言えば『小規模な醸造所で製造される職人技のビール』です。

アメリカの小規模醸造所の業界集団『ブルワーズ・アソシエーション』は、クラフトビールの定義として『小規模』『独立している』『伝統的な原料・製法で製造している』を挙げています。

日本においては、大手ビールメーカー以外で造られる個性豊かな地ビールを指すことが多いようですが、近年はクラフトビールを手掛ける大手メーカーが登場しているのが実情です。

醸造所の規模や製造方法にかかわらず、『ブルワー(造り手)がこだわり抜いて造ったビール』がクラフトビールといえるでしょう。

方向性を決める

若者のビール離れが進む中においても、クラフトビールの人気は右肩上がりです。『おしゃれ』というイメージを持つ人が多く、「自分の店でおしゃれで個性的なクラフトビールを扱ってみたい」という店舗経営者も増えています。

クラフトビールを扱う際に重要なことは、自分のブランドコンセプトや方向性を明確にすることです。

酒税法改正では、麦芽比率の下限が100 分の 50 まで引き下げられると同時に、使用できる副原料に『果実』や『香味料』が追加されました。改正によって、ブルワーは今まで以上に個性やこだわりを表現しやすくなったといえます。

自分たちの方向性やコンセプトを策定した後は、商品に反映させるための具体的な案を考えていきましょう。

ビールを造るには免許が必要

ビールを造るには、酒税法に基づいた『酒類製造免許』の取得が必要です。具体的には、製造場の所在地の所轄税務署長に申請をして製造する酒類の品目別・製造場ごとに製造許可をもらいます。税務署で審査する主な項目は以下の通りです。

  • 申請者の法律の遵守状況
  • 経営状況
  • 製造技術能力
  • 最低製造数量基準
  • 製造設備の状況

『ビールの最低製造数量基準』は、清酒と同じ年間60klです。以前は2000klでしたが、酒税法改正で大幅な引き下げが行われました。

酒税法第10条の『製造免許の拒否要件』に当てはまる場合、免許が付与されない可能性があるため、事前によく確認をしておきましょう。酒類製造免許の登録免許税は1品目あたり15万円です。

小規模醸造所(マイクロブルワリー)が取得する発泡酒免許

『酒類製造免許』の取得は設備投資にかかる費用が高く、飲食店を中心とした小規模醸造所(マイクロブルワリー)にとってはかなりハードルが高いのが現状です。

年間60klが最低製造数量の『酒類製造免許』に対して、『発泡酒免許』は年間6kl以上の製造が要件となり、小さなスペースで醸造可能になるため小規模なブルワリーにとって最適な免許になりました。クラフトビールブーム、クラフトビールを専門にするお店が近年増えたのも、酒税法の規制緩和が大きなきっかけになったのです。

原料の選定

(出典) pexels.com

全国の醸造所ではブルワーが自分なりのこだわりを持ってビール造りに励んでいます。そのこだわりが現れるのが『原料の選定』です。必要な材料はごくシンプルですが、組み合わせ方は無限に存在します。

何を使用するかで味が大きく変化する

クラフトビールの原料は、水・酵母・麦芽・ホップの四つが基本です。このほかに、『副原料』として、麦・米・コーン・こうりゃん・馬鈴薯・スターチ(でんぷん)・糖類・着色料・香味料・果物の添加が可能です。

原料には産地や種類があり、組み合わせ方や選び方によって仕上がりが大きく変化します。造りたいビールを明確にイメージして原料の選定を行いましょう。

例えば、ビールの90%を占める水には『軟水』と『硬水』があり、ミネラルの含有量が異なります。酵母の活性に与える影響や飲み口が変わるため、原料のおいしさを引き出せるのはどの水かをしっかり見極める必要があるのです。

ホップの種類を知ろう

『ホップ』は、アサ科のつる性多年性植物です。ホップの雌株(受粉前)には『毬花』があり、中の『ルプリン』がビールに独特の苦味や香りを与えます。

ホップの種類は全世界に100種類以上あるといわれていますが、使用目的によって、苦味を付ける『ビタリングホップ』と香りを与える『アロマホップ』に大別されます。

ビタリングホップの代表格といえば、ドイツ産の『マグナム』や、アメリカ産の『シムコ―』、オーストラリア産の『ギャラクシー』です。

アロマホップとしては、爽やかなシトラス香のある『シトラ』やマンゴーやパインのようなフルーティさが自慢の『モザイク』などがよく使われます。

ビールのもとをつくる工程

(出典) pexels.com

ビール造りは、『製麦』→『仕込み』→『発酵』→『貯酒』という流れで行われます。最初に行う『 製麦(せいばく)』と『仕込み』は、ビールのもとをつくる重要な工程です。実際にどのように行うのかをみていきましょう。

製麦

『製麦』とは、収穫した大麦を発芽させ、『麦芽』をつくることを指します。機械を使ってダストや石、砕麦などを取り除いた後、浸麦槽で麦に水分を含ませて、発芽室で発芽を促すのが最初のステップです。

発芽中の大麦は『緑麦芽』と呼ばれます。自らの酵素でタンパク質やでんぷんを分解するため、粒は指で潰せるほど柔らかくなります。浸麦・発芽で軟化するプロセスは『溶け』と呼ぶことも覚えておきましょう。

その後、発芽を止めて醸造しやすい状態にする『焙燥』や『焙煎』に入ります。熱風で焙燥させることで、ビール独特の色・香りが引き出されます。

麦汁煮沸

麦芽のでんぷんはグルコースが何個もつながった状態です。このままでは分子が大きすぎてビール酵母が細胞内に取り込めないため、でんぷんの構造を小さくする必要があります。

砕いた麦芽と副原料を混ぜ合わせた後、お湯に60~90分間浸して粥のような状態にします。すると、でんぷんが酵素の力で『糖』に分解され、酵母が取り込める状態になるのです。

その後、麦汁を濾過して煮沸し、何回かに分けて原料のホップを加えます。煮沸の主な目的は、濁りの原因となるタンパク質の凝固や殺菌、不快な匂い成分の除去です。香りや苦味を付与したり、泡持ちをよくしたりする役目もあります。

発酵させてビールを造る

(出典) pexels.com

ビール造りではビール酵母による『発酵』が欠かせません。酵母が麦汁内の『糖』を取り入れ、アルコールと炭酸ガスを排出することで、程よいアルコールやビール特有のシュワシュワ感が生まれるのです。

発酵とは生化学反応のこと

続いて、煮沸した麦汁に酵母を加え、発酵を促すプロセスに入ります。『発酵』とは、酵母によって麦汁中に含まれる糖分が『アルコール』と『炭酸ガス』に分解される生化学反応のことです。発酵の副産物として『エステル』と呼ばれる揮発性の香り成分も生じます。

ビールの風味は『発酵の温度』によって左右されるため、冷媒システムなどによって発酵タンクの温度管理を行いながら、発酵を促していくのが一般的です。

発酵の種類は、15~22℃の高温で発酵を行う『上面発酵』と、5~12℃の低温による『下面発酵』に大別されます。名称は、酵母の働き方に由来しています。

ビール酵母とは微生物のこと

発酵の主役である『酵母』の正体は『微生物』です。ビール造りに貢献する主なビール酵母は『ラガー酵母』と『エール酵母』で、それぞれに個性があります。

ラガー酵母は、発酵が終わると沈降することから『下面発酵酵母』と呼ばれます。発酵期間は7~10日ほどで、低温で活性化するのが特徴です。

一方、エール酵母は、発酵過程で浮上して表面に膜を造ることから『上面発酵酵母』と呼ばれます。発酵期間は3~4日と短めです。

ラガー酵母による『ラガービール』は爽快な喉越しとすっきりとした味わいが魅力なのに対し、『エールビール』には豊かな香りとコクがあります。

若ビールからビールへ

(出典) pexels.com

発酵後のビールは味も香りも未熟な『若者』です。熟成というプロセスを経ることで、味わい深いビールへと変化していきます。上面発酵(エール)と下面発酵(ラガー)とでは、熟成方法や期間が異なります。

熟成前の発酵液は若ビールと呼ばれる

アルコールや炭酸ガスを含んだ発酵液は『若(わか)ビール』と呼ばれます。味に深みがなく香りも未熟なため、熟成によって『未熟な香味の原因物質(オフフレーバー)』を低減させる『貯蔵(lager)』を行います。

『ラガービール(lager beer)』という名称は、『貯蔵(lager)』が由来です。下面発酵酵母によるビールは、上面発酵酵母よりも未熟な香味の原因物質が多く、低温でじっくり熟成させる必要があるのです。

ビールを貯蔵タンクの中で熟成すると次第に風味や香りのバランスが整い、澄んだ液体へと変化していきます。

熟成の方法と期間

熟成を進めるために、若ビールを貯蔵タンクに移します。貯蔵タンクに移し替えることで、沈んでいた酵母が再びビール中に広がり、熟成中も『後発酵(二次発酵)』が進行します。後発酵においては、若ビールの中に『適量の酵母を含んだ発酵性の成分』が残っていることが重要です。

熟成期間は下面発酵が約1カ月、上面発酵は約2週間です。常温で発酵させる上面発酵ビールは未熟臭物質が少ないため、それほど長い時間を要しません。ただし、『バーレイワイン(上面発酵)』は半年~数年の熟成が必要な『長期熟成型』です。

熟成終了後、無濾過ビールはそのまま樽詰めをしてお店で提供できます。濾過が必要な場合は濾過器で過剰な酵母を取り除いてから樽詰めを行います。

まとめ

原料の選び方や組み合わせ方、醸造方法の違いで、唯一無二のクラフトビールが完成します。ブルワーは「こんなビールが造りたい」という明確なイメージを持ち、それを再現するためのさまざまな試行錯誤を繰り返しているのです。

クラフトビールを製造するには、酒類製造免許が必要です。製造数量基準や製造技術、設備の基準を全て満たさなければならないため、準備には時間がかかります。クラフトビールの製造や導入を検討している人はしっかりとプランニングを行いましょう。

ブログ一覧へ戻る